座敷童に会った時の話。

今日とある事をきっかけに「あ、そうだ」と座敷童に会った時の事を思い出したので、誰かに話したくなりここに書こうと思いました。

19歳頃の話です。
当時、私は居酒屋さんでアルバイトをしていました。
それまで”居酒屋さん”という所へ行った事がなく「どういう場所なんだろう」というちょっとした憧れがあった為、お店自体に直接潜入してどういう場所なのかを知ろう、と思った為でした。

高校生時代に夜遊びなんかした事の無かった私には、夜なのにこんなに賑やかな場所があったんだ、と感動にも似た気持ちと共に毎日楽しくやりがいを持って仕事に励んでいました。

朝5時までの営業だったそのお店は、4時頃になるとトイレ掃除をします。
だいたいその時間帯になると、お店の中もかなり静かになっています。

私がそのお店に勤めだして半年経った頃でしょうか。

いつも通りに一人でトイレ掃除をしていると「ん?」と思いました。
鏡を拭いていたのですが、左側にある真ん中の個室に子供が居る気配がしたのです。
見ても居ないですし、確認しに個室へ入っても勿論誰もいませんでした。
普通に気のせいだと思って、そのまま掃除を終わらせて、特に気にしてませんでした。

でも、次の日にも同じ事があったのです。
掃除をし始めた時にはすっかり忘れていたのですが、鏡を拭いているとまた「ん?」となり、
今度は、”真ん中の個室の便座の上で体育座りのように膝を抱えてしゃがんでこっちを見ている男の子が居る”とハッキリ感じました。
便座に座っている のではなく、便座の上でしゃがんでいる なのです。

座敷童

でも見ると居ない。

「何だ?」とは思ったのですが全く怖いとかはありませんでした。
この時は、気のせいかもしれないし気のせいじゃないのかもしれないけど、よくわからないけれど悪い子じゃなさそうだから気にしないで居させてあげよう、と思っていました。

その後もトイレ掃除をする時は、いつもそうでした。
いつも真ん中の個室の便座の上で膝を抱えてしゃがんで私を見ている。
居るのか居ないのかは私にはわからないけれど、私はトイレ掃除が好きになりました。
その子に見られてても恥ずかしくないよう、それまで以上に丁寧に掃除をするようにもなったし、なんだか楽しくやれるようにもなってました。

そんな日々が1ヶ月くらい続いた頃、店長にその事を話してみました。
「それって、もしかしたら座敷童なんじゃねぇの?」
そう言われたのですが、私にはあまりピンとは来ませんでした。
なぜなら私は座敷童という人に会ったことがないからです。
「そうなんですかねぇ。よくわからないけれど、でも誰か居ます」
「ちなみにそれって最近なの?」
「いや、一か月前くらいからです」
「おい。やっぱそれ座敷童だよ!」

当時の私はまだ若かった事もあってか、あまりお店の売り上げがどうとかそういう事には関心がありませんでした。
でも、店長の話によると、その頃、例年に比べて何故か異様に売り上げが良かったそうで。

「そいつはきっと座敷童だから大切にしてやれよ」
そう言われました。

でも、大切にするように、と言われても、どうしたら良いのかもわからないですし、
私はいつだって真面目に仕事していたし、それ以上何もどうしようもなかったので、それからもいつも通りに自分のやるべき仕事を真面目にこなしていました。

それからどれくらい経った頃だったかはちょっと忘れてしまいました。
店長に話してから1ヶ月くらい経った頃でしょうか。

いつも通りにトイレ掃除をしていた私はまた「ん?」となりました。
鏡を拭いている時に、いつも真ん中の個室の便座の上でしゃがんでいたあの男の子。
この日は居なかったのです。
でもこの時は「今日は居ないのか」と思ったくらいで、あまり気になりませんでした。

その後も、トイレ掃除をしていても、男の子はいませんでした。

多分そんな事が1週間ほど続いた頃、私はやっと「あぁ、居なくなってしまったんだな」という事に気付きました。

でも、その男の子に最初に出会った時にすぐ誰かに伝えたりしなかった時のように、
私は男の子が居なくなってしまった事も誰にも言いませんでした。

自分の中でその男の子に何となく思いを馳せる事はあったけれど、その思いを誰かと共有できるともあまり思っていなかったし、なんとなく自分の中に静かに置いておきたい気持ちだったからだろうな、と今は思います。

その男の子が居なくなってから1,2か月経った頃だったでしょうか。

「おまえが前言ってた座敷童、最近もまだ居るのか?」
営業中、お店が暇で立ちぼうけている時、店長に言われました。
「あぁ、トイレの男の子ですか。もう居ませんよ」
「え!?居ねぇの!?いつから居ねぇんだ!?」
「確か1ヶ月前くらいだったかなぁ・・」

最初は少し冗談気味な感じで話し始めた店長が真面目な顔になりました。

「おまえがトイレに居るって言ってたそいつ、本当に座敷童だったんだと俺は思うよ。
おまえがそいつを見るようになった頃からそいつが居なくなるまでの間、店の売り上げすげぇ良かったんだよ。
なんだぁ、居なくなっちまったのかぁ。まぁ仕方ねぇよな。でも居てくれてありがたかったな!」

私はまだ若かったから、お店の売り上げなんて正直気にしていなかった。
でも、”厳しい人だ”という理由で皆から嫌われている店長になんだかんだで可愛がってもらっていた私は、
私が「笑わないで聞いてくださいね。トイレの真ん中の個室になんか男の子が居るんです・・」と話した時に
バカにする事なく「おぉ!?そうなの!?何それ詳しく聞かせろよ^^」と言って真面目に聞いてくれた事、
そしてその男の子を「大切にしてやれよ」と言ってくれた事、
そして居なくなってしまったあの子に対して
「居てくれてありがたかったな!」と言ってくれた事。

売り上げを気にしていない私にはその”ありがたさ”はわからなかったけれど、
でも私が信頼している店長がそう言っていたので「居てくれた事はありがたい事だったのか」とそこで一つ学びました。

でも今よく考えれば、私がいつも一人で寂しくトイレ掃除するのを見守っていてくれたと思うと、
今だったら私も店長と同じように「居てくれてありがたい存在だったな」と思います。


これが、私が座敷童に会った時の話 です。







ここからは余談です。


さて、この居酒屋さん。
私とこの居酒屋さんの”最後”がどうだったかと言うと、円満退社ではありません。
私は社員と喧嘩をしてしまいました。
私と同じくフロア担当だったとある男性社員。
居酒屋なので、大人数の部屋では楽しく飲み過ぎて吐いてしまうお客さんも居るのです。
私の中では別に”誰がやるもの”だという認識はなかったし、会社としても誰がやるというルールはありませんでした。
気づいた人が、手があいている人がやればいい、と思っていました。
バイトだって社員だって、ゲロ掃除、、やる時はやります!
でも一人だけ悪い社員が居たのです・・
「おぅ、〇〇、おまえ手空いたら〇〇卓片付けてきて」
「はい」
といったその子が向かった先には、ゲロが・・
私は、その子がやる必要もないと思ったけれど、文句言わずにやっているその子をいつも手伝いました。
他の社員さんが気づいて掃除をし始めた時も、自分の手が空いていれば手伝う。
私も他の子もそうしてました。
でも、その悪社員だけは絶対やらないんです・・
店長にそれを伝えたら「おい、おまえもやれよ」と言ってくれたのですが
「え、おれも全然やってますよ」と普通に嘘をつきました。
チクった手前、コソコソ知らないふりをしたかった気持ちもあったけれど、「あいつチクりやがったな!」と思われるのも嫌なので、『わたしがチクりました』と言わんばかりにちゃんと店長が注意する現場に立ち会ったので、目の前で平気な顔をして嘘をついたその社員に本当に頭にきたけれど我慢しました。
そしてある日。
またゲロから逃げた悪社員に私はとうとう怒ってしまいました。
そして営業中にも関わらず大喧嘩になり。
最後は「バイトのくせにガタガタ文句言うんじゃねぇ!」と言われたら、何も言えなくなりました。
何も言えなくなったので、頭にきた私は着替えて帰りました。

お店から電話が何回も入ってました。
でも出ませんでした。
朝の5時半過ぎだったかな。
店長の携帯から着信があったので出ました。

「お前は悪くねぇよ。助けてやれなくてごめんね。今日勝手に帰ったことは気にしなくていいから、また明日元気な顔して来てくれな」

「はい」
と言って電話を切ったけれど、私は翌日無断欠勤をしました。
その次の日も無断欠勤。

どう過ごしていたかは覚えていないけれど、ずっと家に一人で居たと思う。

3日目くらいに店長に電話しました。
でもいの一番で「もうおまえ、来なくていいから」
そう言われて悲しすぎて何も言えなかった。
しばらく無言が続いたあと
「じゃあな。元気でやれな」
と言われ、電話は切れました。


こうして私の居酒屋バイトは終わりました。





でもこの話には続きがあって。

店長とはその後、街で再会したのです。
「おー!!おまえ元気だったかよ!!」と私と会った事を喜んでくれました。
立ち話を少しして、私の中にあったわだかまりのようなものはすっかり消えました。

今こうやって書いていたら、あの最後の無言の時間は私が「もう一度チャンスをください」と言うべき時間だったのかな、と。

でも、私は言わなかった。悲しすぎて何も言えなかった。

その事によって、そこで道が分かれたそのもう一本の道を歩いてきた今、
とても幸せに生きているので、あの時悲しすぎてよかったな、と、今思っています◎





長い長い長文。
ここまで、最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

お疲れ様でした。
良い一日をお過ごしください☆