毒親と鬱と社会不適合者の話⑥(蛹は羽化する)

【蛹は羽化する】

新しい部屋で私は『断薬』する決意と引き替えに『自信を持って引き籠り生活を送る』事を決めました。

偶然のタイミングで、Habboホテルというアバターチャットゲームに激しくハマり、
食べず、寝ず、横にならず、3日間やり続けるほど、夢中になっていました。

食べず、寝ず、横にならず という生活は決して良いモノではない事に違いはないのですが、
当時の私にとっては、とても良い事でした。

なぜなら、それだけHabboホテルに夢中になった結果、薬を飲む事自体を忘れて生きる様になったからです。

薬を飲まなくても1日が無事に過ぎていく事。


Habboホテルというゲームは、アバターで好きなキャラクターを作ります。
『ホテルの中』という設定になっている空間の中に、カフェやラウンジ、ディスコなどの公共の場とプライベートスペース(個人の部屋)があり、会話を楽しむチャットサービスといったゲームでした。


社会から自分の身を隠したこの暗い部屋の中からたくさんの人たちとの会話を、私は薬を飲む事さえも忘れて夢中になって楽しんでいました。

ラウンジで、どこの誰かわからない人が引き籠り生活の極意みたいなものを伝授されているのを見て、なるほど!と思ってみたり。
蝶々が欲しくて個人が立てているオークションルームで競り合いに参加してみたり。
誰かわからない親切な人に、レアな家具をプレゼントされてみたり。
誰かはよくわからない人に、昔の仕事の上司のおかしな所を聞いてもらってみたり。

『私、本当は人が好きなんだ』

しばらくすると、その事に気付きました。



1年くらい、そのおうちで充実した引き籠り生活を送っていました。

薬を飲まなくても数日が知らない間に過ぎてしまっている事で、薬を飲まなくても大丈夫だという自信が、自然と更なる断薬を促してくれました。


引き籠っていてネットだけをする。
いくらお金を使わない生活だからとは言え、働かなければお金は無くなる一方。

そんな事を心配できるほどまでに回復した私はある日、
「そろそろ外に出ようかな」
と急に思い立ちました。


その頃には完全に断薬も出来ていたし、毎日Habboホテルで遊べるのはいいけど、このままだと生活するお金も尽きるし。
そんな事を少し心配しているうちに「なんならそろそろこの毎日にも飽きてきたなぁ」と。



Habboホテルの中で、人と関わる事の楽しさを思い出した当時の私は、ネットとリアルの境目さえ見失っている状態で、ネットの中こそが自分のリアルになっている状態にまで行っていました。

でも、あの時の私には、それが逆にベストだったのだと思います。



画面の向こう側のネットの人たちは、ネットの人たちであるのと同時に実際に居る人たちである事には違いない。
これだけ私が自分の心に正直でありながらも、こんなに居心地良く居れる世界がココにあるのだから、リアルの世界のどこかにもきっと必ず自分に合う居場所があるに違いない!


そういう希望が湧いたのです。



ちょっとした腕試しをしてみたくなったのです。



こうして私は、再び社会へ。

社会の中。
今度は『まだ知らない世界のどこかきっと在る【自分に合う居場所】を求める旅』に出る事となるのです。